オウム真理教。
1990年代半ば、毒ガスであるサリンを撒いた宗教団体という仮面を被った無差別テロ集団。
地下鉄サリン事件のあったの1995年は阪神大震災もあり、一定年齢以上の人はその年の慌ただしさを覚えているのではないでしょうか?
この記事では、オウム真理教の一連の事件を取材して書かれた『オウム事件 取材全行動』の概要と感想をお伝えします。
『オウム事件 取材全行動』の概要
この書籍の見出しは次のようになっています。
- 第1章 前夜
- 第2章 勃発
- 第3章 着手
- 第4章 衝撃
- 第5章 異変
- 第6章 予兆
- 第7章 緊迫
- 第8章 落城
- 第9章 驚嘆
- 第10章 追求
- 一九八九年秋 そして今 狂信と闘ったペンの記録
本書の著者は毎日新聞社。本書は毎日新聞社の記者が、急遽出張を命ぜられる場面からはじまります。
出張先は山梨県上九一色村(かみくいしきむら)。合併によりその名を失った、今はなき村です。
出張からまもなく発生した「地下鉄サリン事件」。その後に続く教団幹部の逮捕劇。そして、ついに逮捕された教祖麻原彰晃。
オウム事件の一連の事実はもちろん、新聞記者としての葛藤、警察や教団関係者との切迫するやりとり。
あたかも事件現場に放り込まれたような臨場感と、オウム真理教という組織の異常さ、そしてさまざまな背景はあれど信者となり教団幹部に上り詰めた元エリートの悲劇。
当時の報道をリアルタイムで見ていた人なら、一瞬にしてタイムスリップできるでしょう。
本書を読むには相当のエネルギーを使います。たとえ、事件関係者でなくても。
読むのにこれだけのエネルギーが必要なら、書くにはその何倍ものエネルギーが必要だったと想像できます。
この書籍には、センセーショナルなテーマに隠れた新聞記者の人生がにじみ出ていると感じました。
使い道を間違えたカリスマ性
バカとはさみは使いよう。
言葉のチョイスはさておき、人生の中で大きな意味を持つ言葉だと、伊奈香澄は個人的に思います。
人物には必ず二面性があり、その人が持つ思想や活躍するフィールドで、世の中に与える結果が大きく変わってくるからです。
オウム真理教(麻原彰晃)はかつて約11,400人の信者を従え、国内外合わせて30の拠点を持っていたといわれています(※1)。
行った行為の良し悪しを一旦考えずに述べると、これだけの信者を(手段は別として)集めて自らを崇めさせたことそのものは、とてもスゴいこと。
誰でもできることではないと思います。
(オウム真理教や麻原彰晃が行った行為を正当化するわけではありません)
SNSでフォロワーを10,000人集める、営業して10,000人の個人情報を集める、起業して社員10,000人の会社を作る。
どれも、誰にでもできることでなければ、すぐに達成できることではありません。
麻原彰晃がはじめに設立したのは「オウム神仙の会」という名のヨガ教室でした。
これだけの信者を集められる力を、ヨガ教室につかっていれば……。
起業して多くの人に喜ばれる事業を行っていれば……。
歴史に「もし」はありませんが少し違った道を歩いていれば、麻原彰晃は困っている人たちを(文字通り)良い方向に導くリーダーになっていたのかもしれません。
伊奈香澄はどれだけ悪いことをした人からも、何かしら学ぶことがあると思っています。
関心することもあれば、反面教師にすることもあります。
麻原彰晃のカリスマ性には関心させられます(あくまでもカリスマ性の面だけです)。
(※1)公安調査庁「オウム真理教」
ライターと新聞記者の大きな違い
伊奈香澄はこのブログと並行してライターの仕事もしています。
この書籍を読んで、今の立場から思ったことが一つ。
(新聞)記事を書くために必要な情報を新聞記者は駆けずり回って得ている、ということ。
夜中に依頼される急な取材(刑事事件など)、警察や関係者とのシビアな折衝、情報を見つけ出す天性の感とも言える洞察力。
どれもライターの仕事では体験できないことです。
(新聞記者がいいとか、ライターがよくないとかそういった話ではありません)
伊奈香澄が記事を執筆するときの情報源はインターネット、書籍、そして本人への取材です。
書籍を探すときや取材するときに外出したり現地に行くことはあっても、夜中に仕事の依頼が来たり、警察から情報を聞き出したりするようなことはありません。
「情報を取る」行為に対する覚悟が違うな、というのが一番の感想でした。
新聞記者もライターも読者に伝えるのは事実。
ライターはプラスαの価値を求めらますが、事実を書くことに変わりありません。
その事実の情報の取り方は正しいのか?その事実は間違っていないのか?
他にもライターが新聞記者から学ぶことは数多くありそうです。
おわりに
白い服を身にまとい、多くの配線に繋がれたヘッドギアを付ける信者たち。
当時小学生だった伊奈香澄の目には、テレビの画面越しでも十分に衝撃的な風景でした。
当時、世間を騒がせた麻原彰晃はすでにこの世にはいません(2018年 死刑執行)。
しかし、今でも麻原彰晃を教祖と崇める団体は存在するそうです。
オウム真理教が起こした事件は絶対に許されるものでありませんが、そこから学べることもあります。
そして、私たちが世の中の情報を知れるように現場を駆けずり回る新聞記者の存在もあります。
正解はありません。
ただ一つ言えることは、あなたが自分自身の頭で考えて自分にとっての正しさを選択し続けることが、「生きる」ということなのだと思います。
ではまたのちほど。