短編小説『海音(みおん)ちゃんのマスク』

考える信州人。

どうも、クリニカをうがい薬だと思っていた伊奈香住です。

今回は気分を変えて短編小説を書いてみました。

タイトルは『海音(みおん)ちゃんのマスク』です。

最初で最後の小説になるかもしれませんが、ぜひ最後までお付き合い下さい。

『海音ちゃんのマスク』

これははるか昔、まだ小学生が決まった時間に決まった場所に集まって勉強をしていた頃のお話です。当時は新型コロナウイルスという正体不明のウイルスが蔓延し、大人も子どもも常にマスクをしているという生活でした。

小学生といっても3年生にもなれば色々なことが気になる年齢です。今まで真っ白なマスクしか使ったことがなかった海音(みおん)ちゃんも友達のマスクの色が気になるようです。

海音「絹香(きぬか)ちゃんのマスク、薄いピンクの花柄がかわいいね。いつ買ったの?」

絹香「ありがとう。お姉ちゃんと買い物に行った時に買ったんだよ。」

美空(みそら)「いいなぁ、美空もそのマスク欲しいな。一緒に買いに行かない?」

絹香「いいよ。それじゃあ、3人でかわいいマスクを買いに行こうよ!」

早速3人はマスクを買いに行きました。そのお店は絹香ちゃんがお姉ちゃんとマスクを買ったお店です。

絹香「私が買ったマスクはこれだよ!とってもかわいいから、今でも人気があるんだよ。」

美空「本当だね、かわいいね。私もこのマスクにしようかな?」

絹香「他にもたくさんあるから、色々見てから決めてもいいんじゃない?海音ちゃんは気に入ったマスクあった?」

海音「私このマスクがいいなぁ。」

海音ちゃんがそう言いながら手に取ったマスクを見て、2人は少し驚きました。なんとそのマスクは男の子がするような真っ黒い、でもかっこいいマスクだったのです。

絹香「海音ちゃん、そのマスクちょっと男の子みたいだよ…。」

美空「そうだよ。私は絹香ちゃんの色違いにしようと思うから、海音ちゃんもそうしなよ。そうしたら3人でおそろいだよ!」

海音ちゃんは黒地に描かれたワンポイントの青い蝶々がとてもきれいだと思いました。その瞬間他のマスクが目に入らないほど、海音ちゃんの目にはその青い蝶々がきれいに映っていました。しかし、絹香ちゃんに言われた「男の子みたい」という言葉も、青い蝶々と同じくらい頭から離れなかったのです。

結局海音ちゃんは2人の意見を聞いてマスクを決めました。そして3人は仲良く同じ柄の色違いのマスクをするようになりました。

そんなある日海音ちゃんは学校である男の子を見かけました。その子は彩之助(あやのすけ)くんといいます。とてもおとなしい性格で、友達と外で遊ぶより一人で本を読んでいることが多い子でした。しかし、口元だけはしっかり自分色に染まっていました。なんと彩之助くんは薄い紫色の生地のかわいいマスクをしていたのです。

海音「そのマスク、きれいだね。気に入っているの?」

彩之助「ありがとう。みんなには女の子みたいって言われるけどね。でも、僕は昔からこの色が好きなんだ。」

海音「そうなんだ。友達と似たようなマスクは持っていないの?」

彩之助「持っていないよ。僕は自分が気に入った色のマスクしか持っていないからね。」

この時、海音ちゃんは思いました。

「私には私が好きなものがある。友達には友達の好きなものがある。」

「薄いピンクの花柄のマスクもかわいいけど、私はあの青い蝶々のマスクが好きだ。」

授業が終わると海音ちゃんは一目散に走り出しました。あのマスクのお店に行くためです。

絹香「海音ちゃん、どこ行くの?」

海音「この前行ったマスクのお店だよ!」

絹香「またマスク買うの?」

海音「うん。どうしても気に入ったマスクがあってね。」

絹香「ちょっと待ってよー。ほら、美空ちゃんも一緒に行くよ!」

3人は学校からマスクのお店までずっと走りっぱなしでした。お店に着く頃には息が上がり、汗もぽたぽた垂れていました。

海音「まだあった!私の好きなマスク。」

絹香「海音ちゃん、このマスクがずっと気になっていたの?」

海音「うん。」

絹香「よく見れば、このマスクもいいね。海音ちゃんらしくていいと思うよ!」

海音「ありがとう。嬉しいよ。」

2人がそんな会話をしていると、いつの間にか美空ちゃんも手にマスクを持っていました。

美空「実は私もこのマスクが気になっていたんだよね。」

美空ちゃんが手に持っていたのは柴犬の絵が描かれたかわいいマスクだったのです。

海音・絹香「美空ちゃんらしくていいね!」

この後も3人は仲良しのまま大人になり、気が付けばおばあちゃんになっていました。

絹香「あの頃はマスクの色に夢中になって、3人でマスクを買いに行ったね。」

美空「海音ちゃんがいきなり走り出すから、何かと思えば…別のマスクが欲しかったって…今じゃ笑い話だよね。」

海音「美空ちゃんだって実は…って言い出して柴犬のマスクを買っていたくせに。」

美空「そうでした!」

3人がおばあちゃんになる頃には新型コロナウイルスはもういなくなっていました。常にマスクをするという生活も、社会の教科書でしか見たことがない子どもばかりです。

海音ちゃんは思いました。

「自分は自分、それでいい。みんなにもそうやって生きてほしいな。」

最後に。

いかがだったでしょうか。

今回は初めて短編小説を書いていました。最初は友達の反応と自分の思いを天秤にかけて、諦めていた海音ちゃんでした。しかし、物語の最後には自分の孫たちにも、自分の想いを大切にする生き方をしてほしいと願うようになっていました。

世の中は2人として同じ人はいません。程度の差はあれ、全員が個性を持っています。そして、どんな個性もその人にだけ与えられた唯一無二の魅力です。

こんなことをわざわざ言わなくても、それが当たり前と思われる世の中になることを、伊奈香澄も願っています。

ではまたのちほど。

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